GoToトラベルをどう考えるか

7月22日からの開始を前に「GoToトラベル」が大きな議論を呼んでいる。7月15日急転直下、政府は全国一律から「東京除外」を決定した。経済回復と感染抑制が真っ向からぶつかり、社会の分断をさせている。なぜこのような分断を生んでしまったのかを、冷静にみておくべきかもしれない。


GoToキャンペーンの主旨と現実のギャップ

そもそもGoToキャンペーンは、令和2年度補正予算で可決した法案に基づいている。国土交通省の資料によれば、下記のように書かれている。


国内に向けた観光需要喚起策
感染の収束を見極めつつ、かつてない規模の旅行商品の割引による観光需要喚起を行い、観光地全体の消費を促進。

・甚大な被害を受けている観光業について、飲食業、イベント・エンターテイメント業などを支援する取組に併せて、官民一体型の需要喚起キャンペーンを実施

・宿泊・日帰り旅行商品の割引や、観光地周辺の土産物店・飲食店・観光施設・交通機関等で幅広く使用できるクーポンの発行に対して支援を行い、地場の消費を喚起
(※ 経済産業省に計上、国 費 1 兆 6,794 億円の内数)


ここからわかるGoToキャンペーンの目的は、感染収束(またはそれに近い状態で)の上で国内旅行需要促進を行うものとなっている。しかし現実には第1波よりも感染者数が拡大する中で収束は見通せる状況ではないし、また需要促進という言葉にも違和感がある。GoToに対する多くの批判はこの主旨と現実のギャップにあるということになるだろう。

実際、メディア各社の報道でも需要促進策とは書かれても、観光産業への救済や支援策という言葉は少ない。「GoToキャンペーン」という言葉の軽さも影響しているのではないか。


打撃を受ける観光産業

一方で、観光産業は深刻な事態となっている。観光庁が発表した4月の主要旅行業社取扱額(47社)をみると前年比95.5%減少、金額にすると3588億円落ち込んでいる。この数字には大企業のHIS、楽天トラベル、じゃらん(リクルート)のほか、中小旅行業者の数字が含まれていないので実態はさらに大きくなる。5月・6月も同様の動きとみられ、この3ヶ月で1兆円をはるかに超える金額を失っているとみられる。驚くかもしれないが、日本には旅行業者が11,560社(2019年5月現在)、従事者は15万人にもなる。また企業全体の94%が20名以下の中小事業者であり、非常に苦しい状態であることは間違いない。6月30日には中堅企業ホワイトベアファミリー中堅企業が351億円の負債を抱えて倒産。てるみくらぶを超えて旅行業者で過去最大の倒産となった。大手企業でさえもボーナスゼロ・月給もカットされ、新卒採用も中止していて、雇用調整金を活用しながらなんとか雇用を維持している状態だ。

また観光産業は旅行業者だけではない。航空や鉄道など運輸業、観光地域には宿泊業や貸切バス事業者もある。宿泊業の4月売上が全国で前年比90%減少、貸切バス事業者も売上が4月73%減少、5月89%減少となっている。宿泊業従事者はもともと非正規雇用の多い業種だが、4月以降従事者数は減少に転じて、70万人台を割り込んでおり、失業が加速している兆候が見られる。そのほか飲食業、レンタカーなどレンタル業、土産物・道の駅、テーマパーク・水族館・博物館など集客施設、ガイド業、そしてコンビニ・スーパーなど小売業まで広がる。観光はもすそ野が広いので、影響はじわじわ広がっているはずだ。


観光産業の特徴として、需要に季節波動があることだ。1年間で2/3は閑散期の赤字であり、1/3の繁忙期でなんとか黒字にするというビジネスである。特に8月・9月の夏休み期間は1年で最も個人客の収益が期待できる時期である。これを失うことになれば、致命的ともいえる状況を迎えることになり、GoToキャンペーンを前倒しで実施したのは、観光産業の救済策として行ったと考えることができる。単に儲けさせるためではない。平時なら潰れない企業まで影響を受けるところまで来ていると考えてよい。またこの施策は直接支援ではないことから、ブランド力のある企業ほど有利になるということも忘れてはならない。弱者救済ではなく淘汰は容認し競争原理を働かせる厳しい政策でもあるのだ。


観光産業救済策としてのGoTo

このように本来のGoToキャンペーンとは、感染収束後の国内旅行回復を促進することを目的とする景気浮揚策であった。しかし、現実には感染収束前に窮地に立つ観光産業を救済する措置を目的にして進められている。この主旨のギャップが議論を巻き起こしている原因と思われる。従って、当時の収束への見通しの甘さを反省しつつ、政府はこの主旨と目的の変更をしっかり丁寧に説明すべきだ。また、キャンペーン運営委託費1895億円という巨額の費用は、旅行大手が中心となった共同事業体(日本旅行業協会JATA、全国旅行業協会ANTA、日本観光振興協会、JTB、KNT-CTホールディングス、日本旅行、東武トップツアーズの7者)が受けるが、内向きにならずしっかり国民に対して説明すべきだ。


また、観光産業は国がすべてを直接補償するほと小さな産業ではない。従って現在のGoToとは、ToSave観光産業であり、官民一体で観光産業を支える施策なのだ。健康で経済的・時間的に余裕がある旅行者が、この施策を通じて旅行をして気持ちよく観光産業を応援する状態であってほしい。

国内版トラベルバブルが現実策

GoToキャンペーンの実施に関して、観光産業の従事者の多くは、手をたたいて喜ぶというよりは複雑な心境だと思う。感染収束しない中では、生き残るために必要だが、従業員の感染者も増やしたくはないはずだ。またツーリズムは旅行者、観光産業従事者だけで完結するものではない。産業のすそ野が広く、地域住民とも関わる。その意味では、感染者が少ない地域同士の相互移動を段階的に認めていくトラベルバブルを国内旅行でも要請ベースで促すのはどうだろうか。国が一律に決めるのではなく、各都道府ごとに判断を委ねてもよいと思う。全国一律は思考停止である。


いずれにせよ不確実な状況の中では、何をやってもリスクがある。万人受けする政策はない。ある程度の朝令暮改も致し方ない。大切なのは試行錯誤。失敗を追求しても意味がない。今は平時ではなく、有事である。平時の議論をしてもナンセンスである。但し、できるだけ正しい判断を下すためには感情に左右されず、データをもとに根拠ある議論をしなければならないことは当然である。


またウィズコロナでの旅行には、旅行者にも責任が伴う。ある意味で、交通量が多い信号のない交差点の横断歩道を渡るようなものかもしれない。誰かにすがるのではなく自ら確かな情報を得て判断して前に進む。これしかない。良心に従ったレスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)がまさに問われる。観光産業が感染防止の努めるのは当然だが、同時に旅行者に責任ある行動を求めたい。


ツーリズムに関わる皆さん、頑張りましょう!

時に、ツーリズムはその軽いイメージから簡単に不要不急の対象にされてしまう。GoToという「響きの軽さ」にもそれが影響しているようにも思える。しかし、観光産業従事者は、他の業界に比べて「カネ」より「やりがい」を重視する人が多い。人びとの喜びや幸せをやりがいとしている仕事であるにも関わらず、心ない批判に対して相当傷ついた人も多いのではないか思う。皆さんは、社会に潤いをもたらし、人びとに希望や勇気を与える存在であることは歴史が証明している。ぜひ自信を失わずに、持ち前の明るさで前を向いて歩んでほしい。

(以上)

SAMETAKU-LAB 鮫島卓観光デザイン研究室

鮫島ゼミ(観光デザイン研究室)の研究・大学教育・ゼミ活動・社会貢献などの活動をお知らせするサイトです。

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