学生諸君へ「企業は何のためにあるか、利益とは何か」

鮫島ゼミは、「模擬会社」として実際の企業や地域の課題解決に寄与する実践的な授業を行っている。なぜそんなことをしようとしているのか、その背景を知らずに取り組むととんでもない勘違いをすることになるので、必ず読んで欲しい。


さて「企業は何のためにあるか?」この問いに、学生諸君はどう答えるだろうか。経済学において、企業は自らの「利益」のために合理的に判断して行動することを前提としている。そのため、資本主義社会において企業は「利益」や「金儲け」のためにあると考える人も多い。


しかし、企業は売上や利益を得るためだけに存在しているのかといえば、それは大きな誤りである。それでは、企業活動を一面的な見方しかしていない。企業は自ら利益を得るためには、他人に価値を提供しなければならない。価値を提供するから対価として利益を得るのである。企業は、顧客が望むもの(ニーズ)を理解して、それに合う価値を提供してはじめて利益を得る。まさにマーケティングとは、提供する価値と獲得する利益を最大化する活動なのだ。


私が21年勤めて経営のイロハを教えて頂いたH.I.S.の創業者の澤田代表から「コストは上げるな、でも品質を上げて、利益は上げろ」と商品企画を担当している時にしばしば忠告を受けていた。しかし、よく考えるとこれは難しい命題なのだ。原価・コストを上げて品質を良くしても値段を上げなければ利益は下がる。しかし、企業は常にライバル会社と競争しているので、簡単に料金を上げることはできない。一方で、値段を下げて安く売ればたくさん売ることはできるが、原価・コストが下がらなければ利益は出ないし、一方で原価やコストを下げて品質が落ちると「安かろう悪かろう」で客は離れていく。つまり、経営とは、相反すること、理屈に合わない矛盾、複数の正解の狭間でいかにどういう決断していくかの連続の中にある。それ相応の価値がない安いものに、顧客を騙して大きな利益を乗せて販売するとどうなるか。成功したとしてもそれは一時的なもので、顧客の悪い評判によって成功は長続きをすることはないだろう。


企業が顧客に提供する「価値」とはそもそも何であろうか。私なりの理解は、「価値」とは顧客を「幸せにすること」である。だから顧客を幸せにしない価値は、その対価である「利益」を得ることはできない。他人の不幸の上に立つ「利益」とは、「価値」に相当しない。このように企業が提供する「価値」と企業が対価として得る「利益」は表裏一体なのだ。


また企業が持っている関係性とは、顧客とだけではない。従業員、取引先、株主など多様な主体との関係性の中にある。企業は雇用を通じて従業員の生活を支え、取引先とのビジネスを通じて取引先企業の経営や生活も支える。また、利益の一部は法人税や固定資産税などを納税に充てられて社会厚生にも貢献する。逆に言えば、利益がなければこうした多様な主体との関係性を維持することはできない。


また利益は、企業の貯金にあたる「内部留保」だけではなく、「投資」にも利用される。「投資」とは、将来にわたり利益を得る目的で事業などに資金を出すことであるが、投資をするから設備やサービスが刷新・アップデイトされ、顧客に与える価値(幸せ)も増していくのである。逆に言えば、利益がない赤字企業は、投資ができず、顧客に与える価値を減らしていくので、顧客から見放され、退出(倒産)していく運命である。このように見ていくと、「利益」とは、単なる「儲け」ではないことがわかるであろう。従って、利益があるのに「投資」をしない経営者は、まさに「金儲け」だけを考えて、顧客や関係者を不幸にする経営者ということになる。

正直言えば、学生が提供するアイデアや企画案などの「価値」なるものを期待する企業や地域は少ない。なぜなら、それはアマチュアが発想する「お遊び」だからである。そのほとんどは、対価を渡すに値しない代物である。しかし、学生諸君が提供する「価値」が「お遊び」だったとしても、利益が生まれなかったとしても、そこに顧客を「幸せにする」という意思と「利益」を社会に還元する意思が少なくとも備わっていれば、その冒険・挑戦を受け止めて応援してくれる寛容な大人はいるものだ。企業・会社は、「儲け」のためだけにあるのではない。社会をより良くしていくためにあらねばならないものだ。


現代は消費者と生産者が分断された時代である。スマホでクリックひとつで世界中のモノやサービスを簡単に手に入れることができる。しかし、消費者を幸せにするモノやサービスをつくるのは、簡単ではない。その多くは、たくさんの苦難や努力の上に成り立っているものだ。作り手に思いを馳せるには、遠くから消費者として傍観するのではなく、自分自身がつくる経験をするのが近道である。人間は目の前で「見えていること」だけで判断し、自分を中心にして世界を見るものであるが、しかしそれだけでは世界の本当のことをわからない。時には、自分中心の物事の見方を捨てて、自分から「見ようすること」ことで世界と自分を見直してみるなければならない。そんなことを考えて、鮫島ゼミでは課題解決型の授業を行うために、「模擬会社」という形態をとっている。


消費者である学生も立派な社会の一員である。社会を変える力を持っている。受け身の消費者として自分のための損得だけを考えるのではなく、他人や社会を幸せにする「価値」について深く考え行動し、作り手の思いを想像できる学生であってほしい。


(以上)

SAMETAKU-LAB 鮫島卓観光デザイン研究室

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