【事後レポート】さめたく塾⑥ 「観光経営と女性活躍」

令和最初のさめたく塾(2019年5月28日)は、老舗旅館陣屋の代表取締役・女将の宮崎知子さんをゲストに「観光系遺影と女性活躍」をテーマに盛況に終わりました。事後レポートをまとめました。ぜひご覧ください。

10億円負債・赤字経営からの再生

陣屋は、数々の将棋・囲碁の名勝負が行われる100年以上の歴史ある有名老舗旅館ですが、どんぶり勘定や危機意識のなさから、経営を引き継ぎだ時には負債10億円を抱える倒産の危機だったそうです。まず最初に行った改革が、高稼働率をあえて捨てて、低稼働でも収益が出る高付加価値・高単価へとギアチェンジしたそうです。9,800円まで下がっていた単価を料理改革によって単価を上げて、今では客単価3万円目標とするところまでに。売上増によって生まれた資金を設備投資に充て老朽化した設備改革を実施、さらにICTの導入により属人的なサービスを情報共有化によって組織的なサービスへとオペレーション改革を行い、その後に休館日の設定するなど働き方改革を実施していったそうです。宮崎さんは「CS(顧客満足)とES(従業員満足)と利益(Profit)のバランスが大切」と語っていたのが印象的でした。


本当に休みを増やせば、業績は下がるのか?

現在陣屋では、月火水は宿泊客を受けない休館日を設定しています。一時的に、売上・利益は落ちたけれども、しかしその後成長カーブを描き、現在では売上・利益は過去最高を記録しています。休館日を設ける理由を「従業員に報いるため、あとは自分にも休みが必要と思ったから」と。また全員が休めることで、「従業員が安心して休めること、全員参加の研修ができるようになったこと、そして考える余裕が生まれたことが大きい」と休館制度のメリットを述べていました。それまで指示待ちだった社員が、自ら進んで動けるようになり、そうした人材改革も業績を支えていることを強調されていました。低稼働でも利益が出る体制への転換と休館制の導入によって、従業員数は120名から50名体制になり、正規雇用化も進み、結果的には総労働時間(従業員一人当たり労働時間×従業員数)が圧縮され、労働分配率を増加させながら、コスト削減を図れたと思われます。24時間、365日稼働で非正規雇用の比重が高いのが当たり前とされる宿泊業において、この常識外れとも思われる一斉休業制度は、様々なプラス効果があることを陣屋は示してくれたと思います。また、観光産業は季節変動があるビジネスです。その意味では、製造業を前提とした画一的な働き方ではなく、農業・漁業にのように集中して働く時期と長期で休む時期とを使い分けるような、柔軟性のある働き方の制度設計も必要ではないでしょうか。

「休み」は創造の時間、観光産業こそ率先を

今年4月から働き方改革関連法が順次施行されます。70年前1947年施行された労働基準法の改正する大改革です。残業の上限は原則として月45時間・年360時間とされ、1日当たり2時間程度しか残業が認められません。時間外労働の上限規制、有給休暇の確実な取得にも罰則規定が求められ、日本人の働き方や休み方が変わろうとしています。休暇の拡大や柔軟な働き方の普及による余暇時間の拡大は、観光産業にとってビジネスチャンスが広がる追い風となるでしょう。

しかし、一方で、日本経済は、空前の人手不足問題に直面しています。観光産業も例外ではありません。インバウンドの活況の一方で、宿泊業の従業員数は過去5年間で約10%低下しています。365日・24時間稼働、季節変動、非正規雇用による機動的な雇用を特徴とする観光産業にとって、このままでは従業員一人当たりの負荷は増す一方であり、顧客が増加しても従業員は疲弊し、従業員にとって職場の魅力は減少、離職率が高まり、さらに悪い職場イメージによって採用も苦戦する悪いスパイラルに陥っているように思います。

フレックス、リモートワークのほか、ワーケーション(休暇先で働く)、ブリジャー(出張しながら休日)などを導入する企業もみられ、多様な働き方が広がる一方で、本来観光産業こそ、先陣を切って働き方改革をリードすべきはずが、他産業に比べて改革をリードする企業は少ないと言えます。休暇も満足にとれず、長時間労働の割には低賃金という評価が定着し、観光産業は就職活動をする学生からも敬遠されがちで、一部を除けば新卒採用で苦戦を強いられていることを、大学教員としても実感しています。

また、男女間の賃金格差を国際比較すると、先進国では日本・韓国だけが男性を100とした時に女性は7割にとどまり、また労働力率(人口に対する就業率)も、先進国では日本と韓国だけが出産・育児のタイミングで低下するM字型を描きます。女性活躍という側面でも、日本人の働き方には様々な課題があるとも言えます。長時間労働を前提とした働き方は法改正によってある程度改善すると思われますが、以前よりマシという発想ではなく、完全有給消化を前提とした働き方を予め設計するなど運用面でも推進していくことで、課題解決につながっていくのではないかと思います。


「休み」とは、働かない「怠ける時間」ではなく、「創造的な時間」ではないでしょうか。陣屋では休館制導入後に、新規事業が誕生し新たな成長を支えていることからも、それを証明しているように思います。従業員をただの手足だと思うか、それとも自ら考える葦だと思うか、経営者・管理者の価値判断が大きく影響しているように思います。観光産業が憧れの職場であるために、陣屋の取組みは、多くのヒントと提供してくれました。


※パスカルの『パンセ』の中にある言葉。
人間は一本の葦にすぎず自然のなかで最も弱いものである。だがそれは考える葦である。

(以上)

SAMETAKU-LAB 鮫島卓観光デザイン研究室

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