《ハワイ特集》知識や成長促す 旅づくりに脱皮を【週刊トラベルジャーナル寄稿】

現在のハワイは日本市場・パッケージ優位の市場である。チャイナシフトや OTA優位で進行する世界のデスティネーションとは異なる特性を有している。しかし、ハワイ州観光局(HTA)によると、18年の日本人渡航者の旅行形態別でFITは前年比11%増の約62万人で、パッケージ利用者(8.7%減・約88万人)との差を詰めつつある。また、米国本土からの送客が好調で、日本のプレゼンスは低下している。

日系社会という特殊性もあり、チャイナシフトが直ちに進むとは思わないが、リピーターが6割を超える状況では高次のレイヤーでの商品開発は必要で、失敗すれば日本重視の施策から転換してチャイナシフトが進むリスクを抱えていると考えるべきだろう。最後の砦をどう死守するのか。

ハワイといえば、忘れられない経験がある。旅行会社入社2年目のことだ。4人家族のハワイ旅行を手配した。その1年後、申込者の長女から電話があり、父親が亡くなったとの知らせだった。私が手配した旅行は、末期がんの父親の希望により、無理を押して行った家族旅行だったことをその時に初めて知った。旅行は人生の節目と関わる「行き時」がある。私はこれを「ライフステージ・ツーリズム」と呼んでいるが、旅行とライフステージには2つの関係性がある。1つは、卒業、結婚、還暦など人生の節目に行う記念日旅行。もう1つは、自分探し、転職、失恋、死別などのタイミングで、旅で人生の節目をつくる「脱皮旅行」だ。この行き時に着目すると、新たな商品開発の手掛かりになる。


リラックスや娯楽だけでなく

旅行成立の要素には、カネ・ヒマ・モチベーション(動機)の3つがあるといわれるが、旅行動機に着目して需要創造を図ることが重要だ。なぜ人は旅をしたいと思うのか。ある研究によると、背景にある欲求は、1知的機能、2苦痛の最小化、3報酬の最大化、4象徴機能、5自我高揚、6社会的適応機能の6つに分類される。前述の家族旅行に例えれば、悲しみから現実逃避したいという苦痛の最小化と家族で大切な思い出をつくりたいという社会的適応機能が重なった。近年のインスタ映え旅行は、自我高揚や「いいね」をもらう社会的適応機能が働いているといえる。

旅行経験の積み重ねで欲求が段階的に変化していくとする研究もある。これに従えば、旅行各社のハワイツアーは逃避やリラックスに関わる緊張解消、レクリエーションや楽しみに関わる娯楽欲求に対応するものが多い。しかし、成熟したハワイ市場ではさらに踏み込んで、人間関係の拡大・強化、異文化への理解など知識増進、自己成長といった欲求に応える必要がある。たとえば、コミュニティーとコミットしたハワイ文化体験や交流、日系人の歴史や平和の学び、地域貢献などが考えられる。これらはHTAが推奨する持続可能な観光とも合致する。

旅行動機の背景を知ることは、顧客ニーズの発見につながる。ところが旅行業の現場では、顧客の旅行動機を把握せずに淡々と企画手配が行われている。顧客ニーズを理解せずに本当に価値ある商品を提供できるのだろうか。ニーズには、意識化された欲求と顧客自身も意識化していない潜在的欲求(インサイト)がある。アンケートやクレームからわかるのは意識化された欲求であり、「意見を聞く」と「ニーズを知る」のは別物だ。

インサイトを探すには、観察によって顧客の本音に迫る方法が有効だ。店舗や旅中での顧客同士の対話は OTAにできない商品化のステージと考えるべきだ。その意味で、企画担当者の添乗は最も基本的な観察であり、旅前の説明会は販促だけでなくニーズを知る機会としてもっと有効活用されていい。企画担当者がマーケターとして旅行者の心の揺れに接近できる体制を整えることが需要創造の大前提となる。

↑ 伝統あるホテルのロイヤルハワイアンホテルは、「インスタ映えスポット」を求めて泊まらないカメラ好き女子が集まる。

↑ ホノルル市ダウンタウンにある地元住民が利用するハワイシアターにも、そのレトロな被写体を求めて、観光客が訪れている。


↑ 多くの米国人が訪れる真珠湾(パールハーバー)に停泊する戦艦ミズーリは、米国人にとって米国海軍のシンボルであるが、激突した特攻隊員の石野節雄氏を軍葬が執り行われた歴史を知る日本人にとっても訪れるべき聖地である。

新たな意味を与える

旅行動機の対象となる観光資源は、意外なところにあるものだ。ワイキキのロイヤルハワイアンには、泊まらない多くの旅行者が訪れ、ピンクパレスを楽しんでいる。いわずと知れた歴史ある老舗ホテルが、カメラ女子には「かわいいインスタ映え」スポットだ。真珠湾の戦艦ミズーリは米海軍のシンボルだが、激突した特攻隊員の石野節雄氏が米軍によって軍葬された歴史を知る人にとっては、訪れるべき聖地となる。つまり、観光資源は人によって異なる文脈で見られている。

インターネットがもたらした情報社会ではこの文脈が多様化している。関心者にとっては価値あるものが、無関心者には全く見えない。地域住民が気づかない観光資源が多いのはそうした理由からだ。このギャップこそが、企画担当者の腕の見せどころだ。旅行商品開発とは、新しい観光資源を探すことではなく、すでにある地域資源に新たな文脈・意味を与えるデザインを行うことである。

では、新たな文脈の種はどこにあるのか。近年のパッケージツアー低迷の本質的な原因は、情報社会へのパラダイムシフトに適応していないからだ。学生たちの旅行先選定プロセスを観察すると、インスタグラムやツイッターでキーワード検索をして、他のユーザーによって投稿された写真やコメントを参考にしている。旅行者自らが観光資源を発掘し、旅行者同士で情報共有して次の旅行者を創出する自律的な生態系が形成されている。商品開発は観光事業者や地域住民だけではなく、旅行者も参画していると考えるべきだろう。

今後は個人が持つ体験情報・感情をシェアするコミュニケーションを仲介する情報代理機能が求められる。旅前・旅中・旅後で旅行者同士の対話を促すハブとして。これらの対話の中で発見した旅行動機を種として、すでにある地域資源に新たな文脈を与え、サプライヤーと共創して新たな検索ワードをつくる。サプライヤーに対する交渉力・提案力が必要だ。

コモディティー化したハワイ旅行では不毛な価格競争に陥るだけだ。多様な文脈に即した商品開発と心を動かすことが必要だ。そのためには、ハワイの固定観念を疑ってみる必要があるかもしれない。旅行は無形の財であり、旅行者の動機と対話に光をあてれば無限の可能性がある。


(以上)

SAMETAKU-LAB 鮫島卓観光デザイン研究室

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