ディズニーリゾートから学ぶ観光マーケティングと地方創生

ディズニーリゾートを地方創生に活かす?

    ディズニーリゾートは、誰もが知る勝ち組ビジネスの典型事例である。顧客と接する従業員をキャストと呼び、ディズニーの物語と圧倒的な非日常の世界観で夢がかなう場所としてハピネスを提供するブランド力は圧倒的なパワーだ。日本国内では唯一無二の存在で、雲の上のような存在として多くの人が考えているだろう。私自身も以前ハウステンボス再生事業を担っている時に、ベンチマークしようにも越えられないものを感じていたし、キャッチアップしようというよりもむしろディズニーリゾートにない差別化をいかに図るかを考えていた。 


    しかし、ディズニリゾートは夢の世界ではあるが、オリエンタルランドという一民間企業が経営する事業体である。ディズニーリゾートの事業会社であるオリエンタルランドの経営指標を紐解くと、オリエンタルランドのマーケティングの神髄が見えてくる。特に観光による地方創生を目指す地域にとっては、応用可能な至極の方程式を提供してくれるのだ。今回は、公開しているディズニリゾートの経営指標から、オリエンタルランドのマーケティングにおける勝利の方程式を紐解き、そこから応用できる観光による地方創生への提言を試みてみたい。


↑ リピート率90%という驚異のテーマパークの収益構造は?


    私自身はオリエンタルランド社員の経験もないし、アルバイト経験があるわけでもない。しかし、企業経営とは、面白いもので、財務諸表はすべての企業が基本的に同じ指標を用いるし、数字の見方を習得できればマクロレベルの経営実態を理解することができる。今回の分析に使うのは、オリエンタルランドのアニュアルレポートであり、誰でも閲覧することができるものなので、一緒に考えながら読み進めてほしい。

▶ オリエンタルランドアニュアルレポート2017


オリエンタルランドの経営指標から勝利の方程式を紐解く

    さて、話に入る前にまず質問から始めたい。ディズニーリゾートに行った時のことを思い出してほしい。前回の訪問時に全部でいくらお金を使ったか?また、何時から何時まで滞在したか?それを把握したうえで次へ読み進めて欲しい。


    オリエンタルランドの経営状況を報告している『アニュアルレポート2017』を読むと、オリエンタルランドの売上高は4,777億円で、部門ごとの売上構成比は、①テーマパーク(ディズニーランド・ディズニーシー)事業3,942億円で全体の82.5%を占め、②ホテル(アンバサダー・ミラコスタ・ディズニーランドホテル)事業661億円で13.9%、③その他(イクスペアリ・モノレール等)事業が173億円で3.6%という構成になっている。2つのテーマパーク入場者数は、年間30,004,000人とあり、テーマパーク事業収入を入場者数で割ると、ゲスト1人当たりの消費額(客単価)が11,594円であることがわかる。さらにゲスト1人当たりの売上(客単価)からテーマパーク事業の内訳を見ると、①アトラクション・ショー(入場料)収入が5,264円、②商品販売収入が4,047円、③飲食販売収入が2,256円と書かれている。入場料は大人が7,400円だが中人・小人・シニア・スターライト・アフター6など様々な券種があるためこのような数字になるのであろう。さて、冒頭の質問の答えをもう一度思い出してほしい。前回の訪問時にあなたはいくらお金を使ったか?オリエンタルランドの数字と自分の行動を重ねてみてどうだろうか。


    この辺りで勘のいい人なら、何か気づいたのではないだろうか。実際にもう少しアニュアルレポートを詳しく見てみよう。


    テーマパーク事業収入の構成比を見てほしい。アトラクション・ショー(入場料)収入は、5,264円でなんと45.4%しか占めていない!園内のお土産やグッズ販売など商品販売が4,047円で34.9%、園内での飲食販売で2,256円で19.4%となり、入場料以外の飲食物販が54.3%を占めている。つまり、入場者は入場料よりも多い金額を園内での飲食物販に費やしていることになる。ということは、ディズニーリゾートとは、「アトラクション・ショーをフックにした巨大ショッピングセンター」であると定義できるのだ!ディズニーリゾートのマーケティングにおける勝利の方程式とは、「園内消費を活発化させること」にある。多くの人は、ディズニーリゾートのアトラクションやショーのいわゆるテーマパーク事業しか見ていない。しかし、それはオリエンタルランドから見れば提供価値の一部でしかない。


    これがわかればあとは簡単だ。園内消費を最大化するために何をするかなのだ。その秘密が滞留時間である。アニュアルレポートを読み込むと、ゲスト1人の平均滞留時間は8.9時間となっている。多くの入場者が、朝から夜までいかに園内に留まっているかがわかる。オリエンタルランドは入場者の入退出データから滞留時間を分析して、経営指標として活かしているのだ。では、滞留時間を増やすための施策にはどんなものがあるだろうか。


    1つはファストパス。これは混雑するアトラクションに並ばなくても済むサービスだ。園内消費を最大化する視点から考えれば、これは他のアトラクションを効率よく巡るためというよりは、並ぶ時間を飲食や商品の購入に充ててほしいのだ。歩いていれば喉が渇いて飲み物が欲しくなる、ポップコーンのいい香りがすればついつい手が伸びる、かわいいキャラクターのグッズを目にして思わず財布が緩む。広い園内を疲れることなく、入場者は本当によく歩いている。ゲストが園内を回遊すればするほど消費額も比例して増えていくのだ。


    2つ目はパレード・ショー・花火などのナイトエンターテイメント。これらが閉園間際の夜の時間帯に行われるのは、そこまで滞在時間を伸ばしてほしいからだ。


    マーケティングとは、顧客のニーズに合う価値を提供し、顧客に買ってもらうための一連の活動のことである。このようにオリエンタルランドのマーケティングとは、アトラクション・パレード・ショー・ファストパスなど通じて顧客ニーズに合ったテーマパークサービスを提供しながら、滞留時間と消費機会を最大化することで、顧客にお金を払ってもらう仕組みを築いているのである。とてもシンプルなことを、客に飽きさせないくらいのアトラクション・ショーの魅力で時間を消費させることを厭わせることなく行っているオリエンタルランドは素晴らしいの一言だが、マーケティングの基本を忠実に徹底的に実行しているとも言える。


    テーマパークのマーケティングと言えば、入場者を増やす努力に注目しがちであるが、オリエンタルランドは、それだけではなく園内消費を最大化するために滞留時間を最大化して顧客に買ってもらう仕組みを綿密に考えて構築しているのだ。筆者がここで主語を「オリエンタルランド」する理由は、世界のディズニーリゾートよりはるかに素晴らしいマーケティングを行っているからだ。以前、香港ディズニーランドに訪問した時に、開園しても一部のアトラクションやショップがオープンしていないことや、閉園終了時の花火の開催時刻の告知も随分いい加減なものであった。


    一方で、オリエンタルランドのアニュアルレポートを読むと、課題も見えてくる。入場者数がここ数年頭打ちとなっているのだ。2015年3,138万人の過去最高を記録してから2016年3019万人、2017年3000万人となっている。アニュアルレポートでも「変革する勇気」という経営トップのメッセージにもある通り、既に新たなテーマパークゾーンの新設やホテルの開業など次の成長への布石を打っている。「ディズニーは永遠に完成しない」というウォルト・ディズニーの言葉を反映しているようだ。


ディズニー流マーケティングの観光地への応用

    ではディズニーリゾートの勝利の方程式を観光地にあてはめるとどうなるだろうか。観光地経営では、訪れる旅行者数(入込客)をいかに増やすかに焦点が置かれることが多い。しかし、オリエンタルランドのケースから応用するとすれば、その課題設定は、既に訪れている旅行者の滞在時間をいかに増やして回遊させ、消費機会を増やすかである。


    衰退した温泉地での旅行者の一般的な行動を紐解くと、旅館到着後、温泉につかり、夕食を食べ、寝て、朝起きたら朝風呂に入り、朝食後出発して、帰宅という流れで、1つの旅館だけで消費行動が完結している。まったく旅行者が回遊して歩くことを推奨していない。しかも日本人の多くは1泊2日旅行の短期型旅行である。


↑ 夜になっても出歩く人が絶えない城崎温泉


    旅行者の滞在時間を最大化させながら消費を活発化させるためには、地域をひとつのテーマパークとして考えてみるといいかもしれない。実際、街全体をひとつの旅館とする考え方で取り組んでいる温泉地は元気だ。城崎温泉(兵庫)、由布院温泉(大分)、黒川温泉(熊本)などは旅行者を浴衣姿で街を歩かせることを徹底している。城崎温泉では、外湯巡り温泉チケットが宿泊代に含まれており、7つの外湯を自由に歩いて巡ることができる。黒川温泉では28ヵ所の各旅館の温泉の中から好きな温泉を 3ヵ所巡ることができる「入浴手形」という仕組みを導入している。温泉めぐりをしながら、飲み物・ソフトクリーム・お土産を途中の商店で買ったり、旅行者をひとつの旅館に留めず、街を歩かせて消費を促しているのだ。多くの旅行者が浴衣姿で下駄を「カランコロン」をならせて歩く風景がまた非日常を演出しており、旅行者をも演出のプレイヤーに仕立てている点も見逃してはならないポイントであろう。温泉地は宿泊を前提にしているので、温泉につかるだけでなく、いかに日中の滞在時間を増やして消費を促すのが次の課題であろう。

↑ 夜も眠らない街ラスベガス


    街全体が統合型リゾート(IR)の集積地となっているラスベガスは、まさに旅行者を歩かせ回遊させることで相乗効果を図っている町だ。旅行者は、宿泊している隣のホテルでカジノもできるし、近隣のホテル併設の劇場でショーを楽しむこともできる。夜中まで中心部ストリップ通りは多くの人で賑わっている。ラスベガスを一望できる「ハイローラー」という世界最大の観覧車は、26時つまり午前2時まで営業している。


    一般的に同じ観光地では同業者であるホテル同士は、代替性のある競合関係にあるが、ラスベガスは旅行者に回遊行動があるため、近隣のホテル同士は単なる競合関係でなく補完関係にある。隣の客が自社の客にもなりうるのだ。その意味では、競合関係でしかない観光地では、新しいホテルや施設が誕生すれば自社の価値は相対的に下がるが、旅行者に回遊性がある観光地ではむしろ価値が高まる。観光地のマーケティングの成功の要素は、観光地全体の協業体制をいかに築くことで観光地全体の価値をいかに高めていくかにかかっている。これがデスティネーション・マーケティングと言われる地域をひとつの商品として考える観光マーケティングの開発手法である。


   一方で、日帰り観光・通過観光の地位におさまっている地域では、いかに宿泊へ結びつけるかを考えるべきであろう。その意味では、ディズニーリゾートで夜まで滞留時間を伸ばすためにパレード・ショー・花火をやっているように、星空観賞・ホタル鑑賞・花火大会など夜のアトラクションを追加したり、サンライズ観賞など早朝のプログラムを追加したりして宿泊へとつなげるべきであろう。宿泊施設がない地域は、民泊推進をすれば良い。イタリアの農村部では、街全体を宿泊施設と捉えて、街のカフェをチェックインやチェクアウトができるロビーや食事会場として、各民泊やゲストハウスを部屋として考える分散型宿泊施設アルベルゴディフーゾという仕組みが広がっている。地方で深刻な空き家対策としても有効な手段であり、デスティネーション・マーケティングとしてとても参考になる事例だ。


    ディズニーリゾートのマーケティングは、その本質を理解すれば様々なケースに応用できることがわかる。ぜひ参考にしてほしい。


▶ 鮫島卓『観光マーケティング論』駒沢女子大学教科書シリーズ より抜粋

SAMETAKU-LAB 鮫島卓観光デザイン研究室

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