進化系旅行プロダクト~OTA対抗策の示唆~

21世紀は大移動・大交流時代と言われる。2030年には世界の人口の5人に1人が国境を越えて旅をする時代になる。その文脈において、現代社会は、ツーリズムが特定の人に起こる特別なことではなく、多くの人々が関わる普通のことに変化していくプロセスにあると言える。

昔は特別であった海外旅行は、現代の最近の消費者の中には、海外旅行は行くだけでけでは満足せず、より大きな便益を求めている。しかし、現在の旅行会社が提供している旅行商品はどうだろうか。敢えて批判的に言えば、いまだに「行くため」の旅行しか提供できていないのではないだろうか。観光庁の調査では、20代女性の海外出国率は30%を越えて過去最高を記録している。大変喜ばしいことだ。しかし、その恩恵を受けているのは、LCC、OTA、インスタグラムであり、旅行会社のほとんどは蚊帳の外である。

では、消費者が求めるより大きな便益とは何か。それは、旅行をすることで得られる効用や効果を高めるより高度な方法を商品として研究開発することにつきる。ただ「行く」ことではなく、よいよい旅の方法を開発しなければならない。ツーリズムには、元来、心身の健康や教育効果などが「なんとなく」認められ、旅行をすることが良いことであることは多くの人が認識している。しかし、どんな旅行をすれば、その効果が高まるかと言えば、それは旅行者任せにしてきたのが実情であろう。

自動車産業では、車の効用が安心・安全性の確保はもちろん、長い距離を短時間に到達するためのスピードの向上を、近年では乗り心地等居住性や燃費などの経済性をより高める便益を、さらに自動運転へと高度な消費者の要求に応えるための研究開発が日進月歩でなされている。毎年、自動車による死亡事故が起こっているが、だからと言って自動車を社会から排除しないのは、社会がより大きな便益を得ているからだ。

一方で、旅行業はと言えば、いまだに「行く」という便益しか提供てきていない。だからこそ、「行く」ための情報ツールとしてより利便性の高いOTAは選ばれる。その意味では、旅行業の未来とは「行くための手段を提供する」ビジネスから、消費者のより高度な欲求に応える商品開発をすべきである。

最近の私の研究テーマは、「ツーリズムを活用したイノベーション創発」の研究である。海外旅行先で新たなビジネスシーズを見つけて、そこから一大事業へと成長させた事例は実はたくさんある。クロネコヤマトの宅急便、セブンイレブン、スターバックス、ドトール、ニトリ、JINSなど例を挙げればきりがないくらい。私がこの研究をしようと思ったきっかけは、ドトール創業者の鳥羽氏とニトリ創業者の似鳥氏の自伝から、ある共通点を見つけたからだ。それは、2人ともに業界団体の視察旅行で海外を訪れており、当事者以外にほかに多くの人が同じものを見て同じ経験をしていたはずなのに、ビジネスシーズを発見して、実際に実行を起こしたのは2人だけだったという事実である。

イノベーションを実現した鳥羽氏と似鳥氏と、ほかの視察旅行参加者のいったい何の違いがあったのか、というのが私の問題意識であった。ここからわかるのは、少なくとも「ただ海外に行けばためになる」ということではないということだ。税金を使った公職者の視察旅行に批判があがるのも、ただ「行くだけ」になっているからだ。

鳥羽氏や似鳥氏の一連の旅行前・旅行中・旅行後の行動をつぶさに調べると、ある行動に共通点が見出された。それを明らかにしたのが今回の研究論文である。こうした研究開発が、実際の旅行商品プログラムに反映されて実用化されていけば、より高度な便益を消費者に提供し、新たな需要を生み出すのではないだろうか。

旅は自由だし、どんな旅の形があってもいいと思う。しかし、供給者のマーケティングの観点でいえば、そろそろ旅行会社には、勘と経験の世界から卒業して、サイエンスとしてツーリズムの効用を研究して、より便益の高い旅行商品の研究開発に本腰になってもらいたいと思う。そのための協力は、研究者としても大いに貢献したい。

(以上)

SAMETAKU-LAB 鮫島卓観光デザイン研究室

鮫島ゼミ(観光デザイン研究室)の研究・大学教育・ゼミ活動・社会貢献などの活動をお知らせするサイトです。

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